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東京地方裁判所 昭和34年(ヨ)2153号 決定

申請人 株式会社田原製作所

被申請人 総評全国金属労働組合東京地方本部田原製作所支部

主文

一、被申請人はその所属組合員をして、申請人の役員従業員および申請人が業務の遂行に緊急止むを得ない必要があると認めて指定した第三者(右従業員および第三者については、申請人の交付する「田原製作所」と表示した腕章を着けた者に限る。)が別紙第一目録記載の申請人本社および工場の構内(別紙図面中青線でかこんだ部分)に出入して別紙第二目録記載の物件の搬出をすることを、構外において口頭でこれをしないように説得する以外の方法で妨げてはならない。

二、申請費用は被申請人の負担とする。

(注、保証金二〇万円)

理由

第一組合の出荷阻止と構内出入の拒否

疏明によれば

一  申請人(以下、会社という。)の従業員の一部で結成する被申請人(以下、組合という。)は、賃金引上等に関する要求貫徹のため、昭和三四年四月一日から争議に入り、現在会社の受注生産にかかる水門関係の各種工事製作品、これに関する各種機械の出荷等を阻止するためと、就業のため構内に入らんとする会社従業員又は第三者の立入を拒否するため、同月二一日から同年七月二六日に至るまで別紙図面表示の

(一)  会社正門の門扉を閉鎖し、門扉に平行して直径一尺二、三寸の丸太を三段に組み、これに対し同様の丸太数本直径三寸ないし六寸の丸太一四、五本を横倒しにしてその相互をワイヤー等をもつて固く縛り、頑丈なバリケードを構築し幅四・四米の正門入口を完全に閉塞し、

(二)  会社裏門の門扉を閉鎖し、その中央に直径一尺二、三寸の、左右に直径五、六寸の丸太三本を立て、これに長さ一八尺、直径七寸の丸太二本を交叉し、上、中、下をワイヤーで縛り更に丸太、角材、ワイヤードラム等を多数ならべてバリケードを作り、会社裏門も完全に閉塞し、

(三)  会社守衛所南西隅から事務所玄関附近まで斜に丸太等の資材でバリケードを設置して、守衛詰所から社内に入る通路を閉塞し、

(四)  事務所玄関、車庫と事務所間の通路も同様の資材を用いてバリケード(ただし事務室玄関前は移動可能なもの)を設置して右玄関、通路を閉塞し、

結局その間主文第一項掲記の会社構内への出入口はすべて閉鎖されていたこと

組合はその間就業を希望する会社従業員、会社構内で就業しようとする下請業者等の構内に入ることを前記の障害物や組合員の実力で阻止していたこと

三  会社はそれらのために昭和三四年四月二一日以降今日に至るまでの製品等の出荷しない工場における引渡をすることはもとより、会社役員、従業員、会社の下請業者の従業員で構内において就業しようとする者も構内に入ることが不可能ないし著しく困難な状態になつたこと

の諸事情が認められる。

被申請人は、右の行為は正当な争議行為であるというが、会社の本社および工場の構内への出入口をすべて閉塞して、右本社および工場に対する会社の支配を完全に排除したり、会社役員又は構内で就業することを希望する従業員等が同構内で就業することを実力で阻止する争議行為が正当とは認められない。またかかる争議方法をとられても止むを得ないような会社側の不当な行為があつたと認めるに足りる的確な疏明もない。

なお、組合は昭和三四年七月二六日前記バリケードを徹去したことが認められるが、疏明によれば、組合はなお事務所玄関を錠により閉鎖し、構内への出入を管理していることが認められ、これと過去における入口閉塞の事実とを考え合わせると組合は今後も会社役員、従業員または会社の製作品搬出等のため緊急に必要とする第三者が主文第一項掲記の本社および工場の構内に立ち入つて就業することを実力で阻止する虞があるものと認められる。

以上の諸事情によれば、別紙第一目録表示の土地、建物の所有者であること当事社間争ない会社は、所有権に基き組合の右妨害行為を排除する本案の権利を有するものと認められる。

第二仮処分の必要性

疏明によれば、会社は主文を受けて製作し、すでに納期を経過した水力発電、灌漑用水等の水門等の製作品およびこれに関連する機械、修理を請負いすでに完成して納期を経過した発注主の機械等を組合の前記行為により出荷ないし引渡をすることができないため、すでに注文主に対し納期遅延に伴う仮工事の費用、延滞償金、遅滞料金等を負担したり、又は代替品を他に発注して納入したことによる損害を受けている外、会社が発注を受ける工事はおおむね納期の厳重な公共事業に関連する工事であるため、納期の遅延を理由として入札資格を奪われる等有形無形の相当の損害を受けているが、特に別紙第二目録記載の物件の出荷がこれ以上遅延することは会社にとつて重大な損害を来たす事情となるものと認められる。

第三結論

よつて、申請人に金二〇万円の保証を立てさせた上主文第一項の限度においてその申請を理由あるものと認め、申請費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文の通り決定する。

(裁判官 桑原正憲 大塚正夫 石田穰一)

(別紙)

第一目録

東京都江東区亀戸町八七番地所在

株式会社田原製作所本社および工場の敷地約七〇〇〇坪および右地上の事務所、工場約四〇棟その建坪合計約二八〇〇坪(いずれも別紙図面表示のとおり)

第二目録

一、田原式ヂェット粗粒分級機      一台

納入先 農林省名古屋農地局濃尾用水事業所犬山頭首工骨材破砕工場

二、浅野川改修事業 小橋可動堰門扉および捲揚機設置工事 一式

納入先 金沢市広坂通り県庁裏据付渡

三、川口発電所水門関係

(1) 一三・〇米×一三・八米 堰堤門扉  六門

(2) 三・五米×二・三米   放水口門扉 二門

(3) 三・六米×四・二八八米 取水口門扉 二門

納入先 徳島県電気局川口発電所

四、(1) 綾北ダム主テンターゲート   二門

(2) 同副ローラーゲート       二門

(3) 同コンヂットチューブ      二条

納入先 宮崎県企業局綾北ダム据付渡

五、(1) エプロンフィータン修理    一台

(2) スパイラル分級機修理      一台

納入先 建設省東北地方建設局大倉ダム工事々務所

(別紙図面省略)

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